ファクタリング利用の妨げとなる「債権譲渡禁止特約」とは?

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どんな債権でもファクタリングを利用できるわけではありません。ファクタリング利用の妨げになり得るのが「債権譲渡禁止特約」です。こちらでは、本特約の概要や注意点、民法改正後の変化についてお話しします。

債権譲渡禁止特約とは

通常の商取引については、債権の譲渡を規制する民法は存在しません。つまり、債権者は民法の制限を受けず自由に債権を譲渡できるということになります。例外として気をつけなければならないのが、売掛先の合意のもと債権に譲渡禁止特約が付いているケースです。

債権譲渡禁止特約とは、その名のとおり債権の譲渡を禁止するルールのようなものです。民法上でもその有効性は明記されています。主に以下のような売掛先にとってのメリットのために付与される特約です。

  • 第三者が関与することによる支払いの煩雑化を防ぐ
  • 信頼できない譲渡先に債権が譲渡されることを防ぐ

主に、大企業が売掛先になっている場合にコンプライアンスの問題から付与される特約といえます。

債権譲渡禁止特約付の債権ではファクタリングを利用できない

ファクタリングやABL(Asset Based Landing)は、債権を売却、もしくは債権を担保に融資を受ける資金調達方法です。上述した債権譲渡禁止特約のルールに抵触します。そのため、特約付の債権では、原則としてのこの両者を利用できません。

3社間ファクタリングは売掛先、ファクタリング利用会社、ファクタリング会社の3社間で契約が締結されるファクタリングの形式です。そのため、ファクタリングの利用を売掛先に通知する必要があります。債権譲渡禁止特約付の債権で3社間ファクタリングを利用しようとすると、ルール違反が売掛先に発覚してしまうことになります。

債権者とファクタリング会社の2社間で締結される2社間ファクタリングでは、売掛先への通知義務はない。しかし、特約を無視して債権が譲渡されたことが明らかになると譲渡無効とみなされるケースがあります。もちろん、特約違反による信頼関係の悪化も避けられません。

ファクタリングを利用する際には一般的に、ファクタリング会社から「債権譲渡禁止特約付の債権ではないか?」という旨が確認されます。譲渡無効になった場合は大きな損害を被ることになるため、基本的に多くのファクタリング会社は債権譲渡禁止特約付の債権買取に消極的です。このように、債権譲渡禁止特約はファクタリングの自由度を大きく妨げている制度といえます。

民法改正により特約付でもファクタリング利用可能に?

上述したようにファクタリングの自由度に大きな影響を及ぼす債権譲渡禁止特約ですが、今後は状況が大きく変わる見込みです。2017年5月、120年ぶりに民法の改正が行われ、2020年4月1日からの施行を予定しています。債権譲渡に関する民法466条も、以下のような改正が行われました。

  • 譲渡が禁止されていた場合も、債権譲渡は有効(事実上、債権譲渡禁止特約は無効)
  • 債務者が譲渡の事実を把握していなかった場合に限り、債権の譲受人ではなくもとの債権者に直接売掛金を支払う(「第三者が関与することによる支払いの煩雑化」「信頼できない取引先に関与する可能性」といった、債権上禁止特約を付与する背景にある問題を払拭)
  • 債務者からの支払いが行われない場合、まず当初の債権者から督促、それでも応じない場合、譲受人から督促できる

事実上、この改正により債権譲渡禁止特約付の債権でもファクタリングができるようになります。ファクタリングの業界にとっても、普及の大きな追い風になる改正として期待が集まっています。

民法改正後も残る問題

民法改正後はファクタリングを取り巻く状況が前向きに変わることが予想されています。その一方で、懸念されている問題も少なくありません。代表的な問題を2つご紹介します。

取引先への信頼への影響

改正後は特約付の債権でも民法に抵触せずファクタリングの利用が可能になります。ただし、これはあくまで民法上の話です。債権譲渡禁止特約はルールという以前に「債権を譲渡してほしくない」という取引先の意思表示でもあります。ファクタリングの利用が発覚した場合は、取引先への関係性には影響が出るかもしれません。

取引先の考え方によっては取引件数を少なくされたり、今後の取引を停止させられたりすることも考えられるでしょう。ファクタリングは欧米では一般的な資金調達方法ですが、日本での普及度は今ひとつといったところ。ファクタリングを利用することによる信頼関係への影響については、慎重に検討しておく必要があります。

改正直後は悪質な業者に警戒を

法律や制度が変わった直後は、認識が一般化していないことを逆手にとった悪徳業者が増える傾向があります。今回の民法改正に関しても例外ではありません。悪質なファクタリング会社を利用しないよう、とりわけ改正民法の施行直後にファクタリングを利用する場合は契約内容を丁寧に確認すべきでしょう。

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ファクタリングを利用する場合はトラブルを回避するため、まず特約付の債権かどうか確認することをおすすめします。また、改正民法の施行後はファクタリングの可能性が広がることが予想されるが、同時に取引先との関係性の問題や、悪質業者の危険性についても留意してください。