ファクタリングと売掛金担保融資(ABL)の6つの違いを比較
ファクタリングと似た性質を持つ資金調達方法に、売掛金担保融資(ABL)があります。その名のとおり、売掛金を担保として融資を受けられる制度なのですが、ファクタリングとはどのような違いがあるのでしょうか? ポイントを6つに絞って解説します。
取引先・審査対象
売掛金担保融資(ABL)とファクタリング。その決定的な違いは取引先と審査対象です。
売掛金担保融資(ABL)は、銀行が企業に対して行う融資です。そのため、審査で重視されるのは融資希望者の返済能力。直近および過去の決算書から財務状況が調べられるほか、事業計画書などもチェックされ、借入金を確実に返済していけるかが判断されます。もちろん、売掛金の信用についても見られることになります。
一方、ファクタリングは企業とファクタリング会社との契約です。さらに、審査対象は売掛先を支払う企業の信用力。ファクタリングを申し込んだ企業の財務状況は、融資に比べるとそこまで重視されません。売掛先の企業が支払期日までにきちんと入金をするかが、主な判断基準です。
銀行審査が通らなくても資金調達の可能性がある
自社の財務状況が芳しくない場合、銀行から売掛金担保融資(ABL)を受けることは難しいでしょう。しかし、ファクタリングの場合は自社の財務状況にかかわらず、資金調達を実現できる可能性があります。とくに、大手企業の売掛債権であれば信用力は抜群。これまでにどのような企業と取引を行ってきたかがカギになるのです。
契約形態と仕訳
前項と重なる部分もありますが、売掛金担保融資(ABL)は銀行との間で結ばれる融資契約です。つまり、帳簿上は貸方に「借入金」として仕訳されます。これを簡単に表すなら、負債を増やして資産(現金)を増やしたのと同じこと。賃貸借表の借方・貸方は、いずれもボリュームアップしてしまい、財務悪化に近い状態となります。
一方、ファクタリングは融資ではありません。あくまでも売掛金の回収を早めるものです。そのため、売掛債権を譲渡したタイミングでは「売掛金」が「未収金」になり、ファクタリング会社から入金があった際は現金へと代わります。
賃貸借表のオフバランス化に最適な施策
近年は、事業運営に活用する資産・負債を賃貸借表の外に出すオフバランス化が、企業価値向上の上で重要だと考えられています。売掛金担保融資(ABL)では賃貸借表のボリュームが増えてしまいますが、ファクタリングではあれば影響はありません。手数料がかかるのはデメリットですが、それはオフバランス化の対価とも捉えられるのです。
調達にかかるコスト
前項で手数料の話が出たので、次は資金調達コストついて解説します。
ファクタリングを行う場合には、ファクタリング会社に対して手数料を支払わなくてはなりません。額は各社異なるものの、2社間ファクタリングの場合は10~30%、3社間ファクタリングの場合は1~15%が相場です。加えて、諸々の諸経費がかかります。
一方、売掛金担保融資(ABL)には手数料がありません。印紙代など細かな費用もかかりますが、そこまで大きなコストにはならないでしょう。ただし、融資である以上利息がかかる点には注意が必要です。年利は8~15%が一般的であり、返済が長期化すればかなりの額になるでしょう。
トータルで費用が安いのはどっち?
条件によって異なりますが、一般的にはファクタリングのほうが売掛金担保融資(ABL)よりも調達コストは大きくなる傾向にあります。ただし、返済回数が増えれば売掛金担保融資(ABL)の場合も利息が膨らむため、トータルコストが大きくなるでしょう。
調達金額
ファクタリングで調達できるのは、過去に発生した売掛金の額に限られます。実際にはここから手数料が引かれるので、「売上金以下」とも言えるでしょう。
一方、売掛金担保融資(ABL)の場合は信用力次第で売掛金以上の融資も可能です。ただし、中小企業の場合は信用力での調達は難しいでしょう。結果として、審査に通りやすいファクタリングのほうが大きな資金を調達できるケースも少なくありません。
スピード
スピーディーな資金調達はファクタリングの大きな魅力です。とくに2社間ファクタリングの場合は、条件次第で即日も可能。その分、手数料が高くなっているというイメージです。
一方、売掛金担保融資(ABL)は金融機関による厳しいチェックが入ります。審査にはある程度の時間がかかるため、少なくとも2~3週間の余裕は欲しいところ。直近で資金が必要なシチュエーションには向かないと言えるでしょ宇。
売掛金の扱われ方と支払い
売掛金担保融資(ABL)は借入金を毎月の分割払いで返済していきます。万が一滞納をすると、将来債権(契約期間内に発生する予定の売掛金)が担保として扱われ、最悪の場合差し押さえに遭うことも。なお、登記の際の登記原因は「譲渡担保」と記されます。
一方、ファクタリングは債権譲渡なので、イメージとしは売買代金の授受です(償還請求権付ファクタリングを除く)。もしも売掛金の支払い企業が期日までに支払いをできなかった場合は、ファクタリング会社による回収が行われます。なお、登記の際の登記原因は「債権譲渡」になります。
分割か一括かの違いが大きなポイント
ファクタリングにせよ売掛金担保融資(ABL)にせよ、最終的には調達額の支払い(返済)が必要です。ただし、どのように支払うかは大きなポイントとなります。
ファクタリングは、売掛金の入金があれば速やかにファクタリング会社へ一括入金を行わなくてはなりません。しかし、売掛金担保融資(ABL)は返済を分割できます。この違いは資金繰りに大きな影響を及ぼすでしょう。
まとめ
最後に、ファクタリングと売掛金担保融資(ABL)の違いを表にまとめました。
ファクタリング | 売掛金担保融資(ABL) | |
契約形態 | 債権譲渡契約 | 金銭消費貸借契約 |
調達コスト | 手数料 | 利息 |
売掛金 | 既に発生している売掛金 | 将来発生する予定の売掛金 |
登記原因 | 債権譲渡 | 譲渡担保 |
取引先 | ファクタリング会社 | 銀行などの金融機関 |
時間 | 最短即日 | 2〜3週間 |
調達金額 | 売掛金以下 | 信用力次第 |
審査基準 | 売掛金を支払う企業の信用力 | 融資を受ける企業の返済能力 |
銀行融資への影響 | ほぼなし | 財務内容次第では悪化 |
どちらか一方が優れた資金調達方法とは言い切れません。自社にとって何を優先すべきか? その答えに合わせた、適切な選択が重要であると言えるでしょう。